AIが手を動かし、人が導く──これからのクリエイティブ制作論

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by
Taichi Kanemoto
April 17, 2025
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3 minute read
a blurry image of a person 's hand with 0's and 1's superimposed

「人が関わるからこそ、AIは活きる」

〜クリエイティブにおける“Human in the Loop”の本当の価値〜

「AIがクリエイティブを奪う」という話を耳にしたことはありませんか?これは、いまだに根強く残る誤解のひとつです。

実際には、今注目を集めている魅力的なビジュアル──たとえば、パーソナライズされた広告バナー、地域ごとの商品画像、短尺動画など──は、AIだけで作られているわけではありません。それらは、人間の意図と戦略、そしてAIの力がうまく融合した結果として生まれています。

ターゲットに響き、成果に繋がり、ブランドらしさを保つビジュアルを作るには、判断力やセンス、文脈への理解、そして倫理観が不可欠です。つまり、どこまでいっても「人の関与」は欠かせないのです。

クリエイティブにおける「Human in the Loop」とは?

「Human in the Loop(ヒューマン・イン・ザ・ループ)」という言葉は、もともと機械学習のトレーニングプロセスにおける人間のフィードバックを意味しますが、ここではより広い意味で使います。
つまり、AIを活用する制作プロセスの中で、人間が判断や監修、文脈の補完を担うあらゆる場面を指します。

AIが生成するコンテンツは、人間の視点があるからこそ「正しく」「意味があり」「ブランドに合ったもの」になります。AIはプロセスを置き換えるのではなく、加速させる存在なのです。
たとえば──

  • プロンプト作成:成功は「良い質問」から始まります。ブランドのトーンや製品知識、ドメイン理解が問われます。
  • レビュー:AIは自分のミスに気づけません。誤情報やブランド逸脱を見抜くには人の目が必要です。
  • 承認判断:大量のバリエーションが生成できても、採用すべきものを選ぶのは人間の役割です。
  • 改善と反復:最良のクリエイティブは試行錯誤の中で生まれます。AIはそのスピードを上げますが、方向性を決めるのは人です。

人とAIがうまく協力することで、ビジュアル制作はスピードと品質を両立できるようになります。そして、そのプロセスを管理するのは、常に「人」であるべきなのです。

「リアルに見える」だけでは足りない。重要なのは「本物らしさ」

AIで生成された画像は確かに見栄えが良いかもしれません。けれど、「リアルに見えること」と「本物として伝わること」はまったく別の話です。

“Authenticity(本物らしさ)”とは、解像度や精度の問題ではなく、「意図」の問題です。
なぜこの画像なのか? なぜ今なのか? 誰に、どんなストーリーを伝えたいのか?

こうした問いに答えられるのは、人間だけです。

さらに、消費者の目が「加工された完璧さ」に敏感になっている今、どこまでが自然か、どこからが過剰かを見極める判断力も、やはり人にしかありません。

ビジュアルを正しく、誠実に届けるために、そして信頼されるブランドであり続けるために──
人の監修は、AIによる誤作動への最良のブレーキでもあります。

AIが本来のクリエイティブ業務を支える

AIの真価は、クリエイターを「繰り返し作業」から解放することにあります。

SNSごとに画像サイズを変えたり、季節ごとに色味を調整したり、多言語向けに背景を差し替えたり──。
これらはマーケターやデザイナーにとって、最も時間を取られる一方で、最も創造性が不要な作業です。

AIがこの部分を担えば、企画から実行までのスピードが劇的に向上します。
仮説検証のサイクルも早まり、パーソナライズされた表現も無理なく実現可能に。

結果として、制作者はもっと「言葉の磨き上げ」や「ブランドの物語づくり」、そして「市場に新たな驚きを届けるアイデア」に集中できるようになります。

現場での「人間の関与」はこう実現されている

「人の関与」と聞くと、手間やコストの増加を想像するかもしれません。しかし、正しく設計されたワークフローであれば、軽量かつスケーラブルに運用することができます。

  • 小売ブランド:AIが季節や文化に応じた背景画像を生成し、マーケターがその中から地域に最適なものを選定。
  • バナー制作:大量に生成されたクリエイティブを、人がブランドガイドラインや法的基準に照らして確認。
  • 非営利団体:AIで各国向けに画像をローカライズし、現地チームが文化的な適切性をチェック。

こうしたプロセスの中で、人は決して「手間の元」ではありません。成果を出すために必要不可欠な存在なのです。

倫理観のあるクリエイティブに、人の価値観は欠かせない

AIには倫理は備わっていません。
どんな出力がOKで、どこからがNGか──それを決めるのは人間の価値観です。

画像が現実的すぎる場合、逆に理想を描きすぎている場合、あるいは誤解を生む表現になっていないか?
そんな問いに答えられるのは、やはり人だけです。

現在、一部の先進的な企業では、AI活用におけるガイドラインの整備が進んでいます。
「AIビジュアルにおける表現の基準」「人種や性別の表現に関するポリシー」「特定分野ではAIを使わない」といった指針を持つことで、ブランドとしての一貫性と信頼を守っているのです。

自社が何を大切にするのか。クリエイティブにどんな価値観を持ち込むのか。
まだ話し合ったことがなければ、今こそその第一歩を踏み出すタイミングかもしれません。

ストーリーの中心には、常に人を

今や、オートメーションそのものが差別化にはなりません。
誰もがAIを使える時代において、違いを生むのは「人だけが持つもの」──それはストーリー、視点、そして意図です。

AIが反復作業を担うことで、人は「共感」を磨ける。
AIが編集をこなすことで、人は「アイデア」に集中できる。
そして、人がループに関わるからこそ、生まれるのは“単なるコンテンツ”ではなく、“人の心に届くクリエイティブ”なのです。

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